アスペルガー症候群のある子を理解して育てる~症状・特徴・発達支援・相談機関について
アスペルガー症候群は広い意味での「自閉症」のひとつのタイプです。
近年では診断基準が変わり「自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder=ASD)」という呼称で理解されはじめた発達障害です。
言語障害や知的障害の症状はありませんが、独特のこだわりや執着があり、周囲とのコミュニケーションが噛み合わずに「変わった人」と思われがちです。
そんなアスペルガー症候群の特徴をもつお子さんを理解するために症状・特徴・発達支援・相談機関についてご説明します。
「あれ?うちの子ってアスペルガー?」と思う時
アスペルガー症候群は、幼児期に言語発達の遅れがないのですが、成長とともに対人関係の不器用さがはっきりすることが特徴です。
これまでは成人後に初めて「大人の発達障害」として診断を受けることが少なくなかったのですが、幼児期に診断を受けるケースも増えてきました。
早い時期から子どもの特徴を理解し、ニーズに合った適切な支援につなげていく取り組みが進んでいます。

お友だちと話しているときに、自分のことばかり話してしまって、止まらないことがよくあります。周りの人から「相手の気持ちが分からない自分勝手でわがままな子」と思われてしまいます。けど、大好きな電車のことになると専門家顔負けの知識をもっていて、友だちに感心されています。
乳児(0-1歳)の発達プロセスで気になること
アスペルガー症候群は知的な遅れがなく、見た目や行動からはわかりづらい障害です。特に、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、症状が分かりやすくでることはありません。
幼児(1-6歳)の発達プロセスで気になること
言葉を覚えはじめて会話ができるようになる幼児期から、「表情を読み取ることができない」「説明を何度もしないと理解ができない」「一人遊びに熱中する」などの特徴が過度に出ている場合、アスペルガー症候群かもしれません。
小学生(6-12歳)の発達プロセスで気になること
本格的な集団行動が始まる小学生の頃になると、本人がその環境で過ごしにくくなってくる場面が増えてきます。アスペルガー症候群の「規則や法則性に忠実」「周囲との協調が苦手」という特徴に対して、周囲の理解が必要になってくる時期です。
アスペルガー症候群の子どもは、言語や知能の発達に遅れがないため、これまで幼児期に気づかれることがあまりありませんでした。
しかし近年では、幼児期にみられる特徴として上記にあげたように「ひとり遊びを好む」「お友達との遊びが広がりにくい」「同じ遊びを繰り返す傾向が強い」「行動がパターン化し融通がきかない」などが明らかになりました。
保育園や幼稚園では「他の子どもにあまり関心がない」「集団で遊ばない」などの特徴がみられるようです。
このような特徴をもつお子さんにとって、集団生活のなかで大きなストレスを感じているかもしれません。
早い次期からお子さんの特徴を理解することは、お子さんが安心して力を伸ばしていくことにつながります。

「自閉症」という言葉は多くの人に誤解されているかもしれません。「自ら」「閉ざす」という文字を見て「心を閉ざしてしまう」心の病気だという間違ったイメージを持たれることもあります。しかし、脳機能のトラブルであって心理的なものではありません。しつけや育て方のせいではないのです。アスペルガー症候群を含めた自閉症スペクトラム(ASD)の原因解明に向けて多く研究が進められており、脳の働きや脳と体を繋ぐ中枢神経のトラブルが原因だと考えられています。
アスペルガー症候群とは?
アスペルガー症候群は広い意味での自閉症のひとつで、今後は「自閉症スペクトラム(ASD)」と名称が変更されました。
アスペルガー症候群≦自閉症スペクトラム=ASDという意味です。
明らかな認知の発達、言語発達の遅れを伴いませんが、自閉症特有の「①対人関係の障害」「②コミュニケーションの障害」「③パターン化した興味や活動」の3つの特徴をもつ障害です。
発達障害の中のアスペルガー症候群の位置づけ
アスペルガー症候群は広い意味での自閉症スペクトラム(ASD)に含まれるひとつのタイプです。
自閉症スペクトラム(ASD)とは「広汎性発達障害」の中に含まれるスペクトラム状(連続体)の一群です。
虹色のグラデーションのように、特徴の表れ方は様々です。
自閉症スペクトラム(ASD)の中のアスペルガー症候群
いわゆる「自閉症」とはカナー症候群・低機能自閉症の事を指し、アスペルガー症候群とは知的障害を伴わない高機能自閉症を指します。

自閉症やアスペルガー症候群を理解するためには「虹色の自閉症スペクトラム」と考えてください!ひとりひとり色の配分が違うから、自閉症の特徴の表れ方も人それぞれなんですね!
アスペルガー症候群の3つの特徴
アスペルガー症候群を含めた自閉症スペクトラムには、大きく分けて3つの特徴があります。
①対人関係の障害
②コミュニケーションの障害
③パターン化した興味や活動
これら3つの症状の具体的な特徴を見ていきましょう。
特徴1:対人関係の障害
・場の空気を読むことに困難さがあり、相手の気持ちを理解したりそれに寄り添った言動が苦手な傾向にある
・社会的なルールやその場の雰囲気を平気で無視をしたような言動になりがちで、対人関係を上手に築くことが難しい
・大勢の中で浮いてしまう
・相手の気持ちを理解するのが苦手
・自己中心的に思われる言動をしてしまう
・相手を傷つけてしまう
特徴2:コミュニケーションの障害
・会話能力は表面上は問題なくできるのですが、その会話の裏側や行間を読むことが苦手
・明確な言葉がないと言葉をそのままの意味で鵜呑みにしてしまう傾向がある
・人の言葉を勘違いしやすく、傷つきやすい面がある
・あいまいなコミュニケーションが苦手
・不適切な表現を使用してしまう
・想像して動くことが苦手
特徴3:パターン化した興味や活動
・いったん興味を持つと過剰といえるほど熱中する
・法則性や規則性のあるものを好み、異常なほどのこだわりを見せることがある
・自分の決めた法則や規則が崩れることを極端に嫌う傾向がある
・マイルールがある
・記憶力が高い
・集中力がある
アスペルガー症候群の治療や発達支援
東京都立小児総合医療センター副院長の田中哲先生によれば「アスペルガー症候群の特徴は他人に関心を持たないとか、他人の気持ちが読めないと言われてきたが、実はそうではない」といい、「他人に関心を抱くようになるタイミングや表現の仕方が他の子どもとは違っている」そうです。
「彼らもまた発達を続けているという当たり前の事実が明らかになっています」とおっしゃる田中先生の書かれている文章を、対話形式でご紹介します。
---アスペルガー症候群は治療したり治せるものですか?
子どもたちは生まれながらにさまざまな枠を持っています。枠とは自分の行動や発想を規制する限界ラインのことです。共同生活する内に、枠を共有していたほうがうまくいくことを学びます。
他の子の影響を受けるという意味で、柔軟性のある共通の枠組みを身につけるようになるのが「社会性」。この共通の枠組みを獲得するプロセスは大人になるまで続き、やがて社会という巨大な枠組みに参加することができます。
アスペルガー症候群は「枠」の作り方に特徴があるとも考えられます。
アスペルガー症候群の特性をもつ子どもたちは、この枠組みを他の人と共有することに時間がかかってしまう。あるいは、一度共有できた枠組みを、状況に応じて変化させるのが得意ではない。独自の固い枠組みができあがります。
---いわれてみれば、自分ルールに縛られすぎて本人もしんどそうだったりします。
この枠組が他の子供達と重なっていれば「学校は絶対に休みません」など、問題にはならないのですが、それが何かの事情で可能ではない場合にも、その枠組を崩すことがなかなかできません。
この枠組みがそれを阻むものと衝突する感覚は、本人にとってかなり強烈なものなので、感情のコントロールも難しくなります。ですが、こうした事を修正できるような発達を促すことで、他の子供達の中で生活する上での摩擦も少なくなります。
自閉的な特性の一部を持ちながらも、社会的には問題なく適応している人もいます。一般の人々と何ら区別す必要はありませんが、スペクトラムであることを考えれば当然のことです。
彼らの特徴は「自分の気が済む」ことがその人の中で占める価値がとても高いことです。他の人であれば、より価値が高そうな自分の利害、他人への顧慮、他人の評価、社会的制約などよりも「自分の気が済む」ことのほうが、ウエイトが高くなりがちです。このため「気の済まない」こととは折り合いがつきにくいです。

「枠」の作り方の違いが障害として表れてしまうのがアスペルガー症候群なんですね!枠組みを状況に応じて変化させるのが得意ではない・・・うーん、思い当たるなぁ。
アスペルガー症候群の診察・相談機関
「もしかして、うちの子って発達障害かも?」と思ったら、発達障害のお子さんの教育・福祉・放課後等デイサービスに関する情報サイト『発達障害情報室』をご活用下さい。
相談できる窓口まとめ
お子さんの発達について気になることがある場合、行政などの窓口に相談することができます。
育児の相談から障害に関する相談、障害児の親の会が運営する電話相談など、様々な相談窓口があります。
制度や福祉サービスまとめ
発達障害のあるお子さんの育ちを支える制度や福祉サービスについて、情報をわかりやすくまとめています。
教育や学びに関するまとめ
お子さんの教育に関して役立つ情報をまとめています。
発達に凸凹のあるお子さんが、自分に合った教育や学びをみつけるために、お役立て下さい。
・自分にあった学び方を選ばせて!~学校教育へのデジタル教材導入をめぐって
・先生や支援者とのコミュニケーション~子どもの困難を“見える化”する工夫
・”参加”と”排除”について考える~公立学校の発達障害に関する意識調査から
当事者や家族の書いた本・漫画・映画
障害のある当事者や家族が書いた本・漫画には生きた知恵がたくさん詰まっています。映画の中にも、良いものがたくさんあります。ぜひご覧になって下さい。
・健常と障害の『はざまのコドモ』
・コミュ障親子の奮闘記『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』
・発達障害オススメ映画7本~笑えるものからシリアスなものまで!
この記事では症状・制度・法律の名称について正しく記載するために「障がい」ではなく「障害」と記載しています。
《この記事の参考にさせてもらった資料》
・田中哲(2015)「自閉症とは」『発達障害者支援ハンドブック2015』p.11-13 東京都保健福祉局
・田中哲(2016)『自閉症スペクトラムのある子を理解して育てる本』GAKKEN
・中村由美子(2004)『中村さんちの志穂ちゃんは~自閉症の有る娘との喜怒愛楽』全国コミュニテイライフサポートセンター
・上野一彦、月森久枝(2010)『ケース別 発達障害のある子へのサポート実例集 小学校編』株式会社ナツメ社
・発達障害・情報支援センター
・厚生労働省「eヘルスネットー アスペルガー」
・内閣府 政府広報オンライン「発達障害って、なんだろう?」